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1.M&A出資案件への対応2.財務面から見た海外経営、リスク管理3.海外子会社の経営リスク4.中国市場について5.グローバル展開の道筋

5、グローバル展開の道筋

●経理・財務機能の海外への集約

ソニーの海外への機能移転は税務に限らなかった。そのほかにも、私が入った2000年当時、いわゆるソニーの社内銀行がロンドンに設立されていた。そこにすべての資金を集中し、ある意味、トレジャリーの機能はロンドンに集約されている。ただし、ロンドンだけではカバーできないので、シンガポールにサブセンターが置かれている。もう一カ所ニューヨークにも持っているが、CPを出す必要があるなどのロケーションの理由からだ。これをロンドンの支店だと思えば、ソニーの中の社内銀行はロンドンになる。トレジャリーは東京も随分小さくなった。ヘッジの機能もかなり外に出ししている。

財務については分散しているといえば分散している。というのは、財務にはいろいろな機能があるが、例えば、最近はあまり行っていないが、M&Aの機能は東京にあった。しかし、私が在籍した当時から、CEOが出井さんからハワードさんに代わっているので、ハワードさんのところに業務的な部分のCFOがいるので、その部分は実質ニューヨークへ移っているということはあるかもしれない。

ソニーの場合、恐らく売上の8割以上は海外だ。そのため、本社を移すという話はしょっちゅう出ていた。真剣であったかと言えば、それほど真剣ではなかったように私には思えた。「通貨の強い国に本社があるのは損だ。弱い国にあったほうが楽だ」と出井さんはよく冗談で言っていた。日本がいいか、アメリカがいいかという話だろうが、すべてドルにするのは大変なのではないだろうか。

リージョンに分けていくのは、割合とソニーは早くからやっている。会計・経理のヘッドクォーターは、やはりニューヨークではなく東京にある。連結決算の作業は、CFOのいる東京でやっている。さらに、ビジネス・マネジメントも東京でやっている。というのは、ビジネスユニットのヘッドクォーターは大抵東京だから、メーカーとしてのファンクションは東京にあり、ミュージックとピクチャーはアメリカのロサンゼルスとニューヨークにある。これは完全に独立した会社があるような感じである。

−「日産ではリスクの管理やヘッジの機能自体は日本に残しているが実際のオペレーションはシンガポールに集約しているそうだ。今回それをシンガポールからさらに親会社のルノーのルノー・ファイナンスを社内銀行として、フランスに全部集約しているそうだ。加えて、例えばお金の支払いのような部分は、シンガポールですべて行っていたが、支払拠点もフランスのルノー・ファイナンスに移すそうである。

ーパナソニックは、基本的に財務の拠点はオランダに置いた上で、グループ内の決裁の拠点を、大分詰めてきていると聞く。もちろん意思決定は当然東京で行うが、実際のオペレーションは、USとシンガポールとオランダの3つである程度束ねて行うようである」とのコメントが参加者からあった。

●人的資源の確保

ソニーの人的資源の確保、いわゆる海外子会社の現地採用者の評価などの管理については、今現在のことについては、やめてから6年経っているので不明だが、基本的にソニーは、現地で採用された現地職員についての評価は全部現地のヘッドに任せているということだと思う。逆に、やはりソニーも日本人がたくさん海外へ派遣される。その場合、日本人の評価は現地に任せず、最終的には日本で行っているということではないだろうか。人事部に聞けば、たぶん「双方向、マルチ・ディメンジョンでやっている」と答えると思うが、実質現場の感覚から言えばそうだと思う。

−「日本の企業は、これまで、いわゆる分権管理をかなりやってきて、これが特に連結経営や連結決算、IFRSといった関係になると、もう少し中央集権化していかなければ、たぶん管理できないのでは、という見方もある、当然、いつまでも日本からいろんな人間を現地に送り込むとことは、コストからいっても徐々にできなくなっていく。結局、現地化していかざるを得ない。それに見合う、評価なり、給与体系なりをどうしていくのかという、この辺が非常に日本企業の今後の大きな悩みの1つであり、また解決すべき案件であろう」というコメントが参加者からあった。

その通りだろうと私も思う。そうした課題への対応として、私がワンデー・クロージングをどのように実施したかを少しご紹介しよう。メーカーにはいわゆる改善チームのようなものがたくさんある。各現地法人の経理担当が改善チームをつくって、この案件に取り組んだのだ。これを現地のCFOが束ねて、本社サイドから私がほとんどすべての現地法人を回った。このワンデー・クロージングの取り組みは、横展開の努力なのだ。そうした横串を刺す機能ではある。ただ、ヨーロッパのCFOは、やはり傘下の人たちの人事権を持たなければ、そうした経営行動は不可能だ。だから複雑にはできない。日本人が行っても、彼の下につくのだから。その評価が、ヨーロッパのCFOがつけている評価と、本社の評価と違った場合どうするかは、むずかしいところだ。そのあたりは、もう少し集約していかなければならない部分はあると思う。

AIGでも、チャーティスでも、連結経営の要請がある。IFRSになると、もっと強くなると思う。これは複雑で、ビジネスユニットごとの締め付けと、連結と、両方くることになる。現場は大変だと思うが、何とかしなければならない。逆に日本側から見れば、ビジネスユニットごとのコントロールと、連結のコントロールの両方を行わなければならないわけだから、結構大変だと思う。日本企業は、割合日本人ですべてを解決してきたこともあり、あまり現地化に慣れていない部分はあるだろう。

余談ではあるが、「ASEAN各国、6カ国の中で、非常に日本に対して友好的な感情を持っている国と、日本よりも中国のほうが大事であると思っている国が実は半々に分かれている。ベトナム、フィリピン、インドネシアは、日本に対してパートナーとして一緒にやっていきたいという意識が強く、一方で、シンガポール、マレーシア、タイは、やはり中国のほうが大事であると考えられているようだ」とのコメントがあった。

●カルチャーのぶつかり合い

私は、住友銀行にいたとき、あるいはソニーにいたときは、現地の人に、日本の本社から、あるいは現地トップとして、ローカル・スタッフに対応していた。今、AIGで、逆の立場になって、かなりギャップがある。完全に連結子会社になった、この4月からはいろいろなことがでてきている。AIGの日本の副会長だったときは、ある意味サポートだから、それほどギクシャクしなかった。しかし、今、富士火災という超ドメスティックな会社にあって8,500人の従業員が、全国津々浦々136カ店にいる。92年の歴史を持つ非常に古いカルチャーをもっている。そうした会社と、アメリカの本社、そして東京にある出先のホールディングスに多くのアメリカ人がいる。フレクション(ぶつかり合い)がないわけがない。あるのが自然だと思う。

しかし、彼らも利口で、アメリカ人をホールディングスに集めて、現場になるべく降ろさないようにしている。ただし、それでは、経理・財務は務まらない。リスク・マネジメントを、今、私がどうしているかというと、「従来のままだ」と、よく言っている。日本人は、とかく面従腹背になりがちだ。面従腹背を英語では、passive insubordinationという。「はい、はい」と言いながら、言うことを聞かない。これでは、連結経営はできない。ここが、非常に難しいところだ。

私もAIGに来てからの5年間、現地化などあまり考えていなかった。しかし、今、考えてみると、AIUの日本とAIUのニューヨークとは、ずっとそうした緊張関係にあったと思う。今度、そうした経験の薄い会社に連結経営を根付かせようとするとき、最初に、私が行ったのは、前述した、英語が話せるCPAを雇うこと。そこから始まって、会議では発言してプレゼンスを示さなければ認められないようなアメリカ企業の文化の中にあって、自ら手を挙げて発言できるかどうか。日本の中でやってきた人ばかりで、日本語の会議でさえ手を挙げないのだから、これから1、2年は非常に大変だと思う。

AIUやチャーティスの売上は、アメリカ(北米)が半分、海外が半分を占めている。その中で、富士火災は、海外での最大の単独オペレーションなのだ。しかも、株を100%所有していればまだやりやすいのだが、54%しか持っていない。少数株主が45%いるわけだ。かなり大変な文明の実験だと思っている。またいつかお話しする機会があれば、愚痴を聞いていただければ幸いである。

●海外展開を成功させるために必要なこと

私は住友銀行を辞して10年以上経つが、ときおり、住友銀行に今もいたら、どうしたかと考えることがある。例えば中国に出るにしても、アジアに出るにしても、海外の職員を東京に連れてきて本社での教育をしてはどうかと思う。ソニーの場合も時折、来てはいたが、むしろ日本人を外に出すことが多い。日本に来て研修させるほうが良いのではないか。研修を何語でやるかは問題だが、例えば三木谷さんなどは英語で行うつもりでやっている。中国と会議する時も、すべて英語で行うというというのは、英語がグローバルなランゲージだ、という認識でやっておられるわけだ。これも、一つのやり方であろう。

ソニーという会社は、最初からグローバルになってしまった会社だったが、通常は海外に出ていってグローバル展開するのは大変なことだ。しかし、海外に出ていかないわけにはいかない。では、出ていくにはどうすればいいのか。

適切なアドバイスは難しいが、一つ挙げるとすれば、特にメーカーの場合は、海外から研修生をどんどん採れるのだから、これを単に労働力として使うのでなく、もっとマネジメントに活かすことで一つの道が拓けるのではないか。研修生を経理まで含めてやれるチャンスはある。あとは、単独で出ていくか、パートナーと一緒に行くかという選択の問題があるだろう。

 

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